HOME > Report > column05

Member’s column

なぜ、「構想」が社会を変えるのか?
〜「社会貢献構想インキュベーター」が求められる理由

By Yuichi Igarashi

構想サークル.001.jpg

YOU.labでは、「社会貢献構想」という言葉を掲げ、それが社会的な課題の解決を促し、幸福を増進させると考えています。

では、そもそも、なぜ「構想」が社会の課題を解決するために必要となるのでしょうか?
私たちが考えるその答えを端的に言えば、以下のようになります。

「社会の課題を解決するのは人である。そして、人を強く行動に駆り立てるのが『構想』である。」

アメリカでリーダーや企業、非営利組織に対して「人々をインスパイアする方法」を伝授してきたコンサルタントの、サイモン・シネック氏はこのように主張しています。

「人はWHYに共感し、行動する」

世界中の人々に閲覧された大変有名な、『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』と題したTEDの動画の中で、「ゴールデンサークル」という考え方に基づいて、脳科学的な視点も取り入れながら、上のようなメッセージを投げかけています。
その動画を見たことがない方は、以下のリンク先を参照してください。


「WHY」とは、企業でいえば経営理念やビジョン・存在意義に当たるようなものですが、それはまさに「構想」そのものであると言えます。

サイモン・シネック氏が提唱するゴールデンサークルと、「構想」やその下位レベルに相当するものとの対応関係をまとめたのが冒頭の図解です。

「構想」とは、「WHY」に相当する「なぜ?何のために?」という問いに対する答えとなる、大きな時間軸やスケールで語られるべきものです。
そして、それを実現するための「どうやって?」に相当するのが、事業やビジネスモデルのレベルです。
さらに、事業やビジネスモデルを推進する上で、「何を?」提供するのかに対する答えとなるのが、具体的な施策や、商品・サービスということになります。

つまり、何らかの課題解決に向けて新たな事業やサービスを生み出すために、人が動機づけられる起点となるのが、「WHY=構想」なのです。
また、具体的な施策や商品・サービスを人に受け入れてもらうためには、その説得のストーリーの起点として、明確な「WHY=構想」を語る必要があるのです。

社会的な課題を解決するには、より多くの人々の行動が必要になります。
そのためには、より多くの人にとって共感できる「共通善」に根ざした「WHY」が必要であることは間違いないでしょう。

それが冒頭に書いた「構想」なのです。

「構想」には、以下のような大きな効果があると思います。

・人々の心を統合し行動に駆り立てる
・資源を集中させ無駄のない効率的な活用を促す
・実現すると人が幸せになる

かなり古い例ではありますが、わかりやすいのは、ハーバードビジネススクールで数少ない日本のケーススタディとして取り上げられ、世界から「ジャパン・ミラクル」と呼ばれた昭和30年代頃の高度成長期における、「月給2倍論」という経済政策です。

「月給2倍論」とは、昭和35年(1960年)に当時の池田内閣が唱えた経済政策の「構想」です。
GNP(国民総生産)を毎年8.8パーセント上げていくと10年後には2.3倍になり、必然的に国民の月給は一人当たり1.9倍になるというものです。

必ずしも、「月給2倍論」がきっかけで高度成長が始まったわけではなく、すでに、昭和28年(1953年)頃から日本経済は伸び始めていました。
しかし、そのような背景の中で、「月給2倍論」という「構想」が国民に提示された事で、高度成長がさらに加速していきました。

先に書いた、3つの効果に当てはめると以下のようになります。

・人々の心を統合し行動に駆り立てる

国民は「月給が2倍」になって、マイホームや電気製品を得て豊かになることを夢見て、熱心に働きました。 企業も、経済成長への政府の後押しを期待して、積極的に設備投資をするようになりました。
そして、現在は大企業となっていますがホンダやソニーなどのベンチャー企業が数多く立ち上がりました。
必ずしも、物質的な豊かさのみを追求することは良いとは言えないかもしれませんが、当時、日本全体が「月給が2倍」になるという夢に向かって、一つの方向にまとまっていたのは事実でしょう。

・資源を集中させ無駄のない効率的な活用を促す

当時は、政府と産業界が一体となり、財政や金融も産業の育成に向けて統合されるような政策が取られていました。
また、新幹線など様々なインフラへの投資も進み、高度成長のための社会資本が蓄積され効率的な経済成長を促すことに繋がっていきました。

・実現すると幸福が明らかになる

「月給2倍論」が実現した結果として、少なくとも物資的な「幸福」が世界の中で高いレベルに達したことは、誰から見ても「明らか」でしょう。
数値的にも実感としても、「幸福」になったことを明示することが可能な状況になりました。

また、「月給2倍論」は、個人・企業・国家というセクターの垣根を越えて、それぞれの活動の意義を統合する「トランス・セクター・ビジョン」とでも言うべき普遍性を持った「構想」であったと言えるでしょう。

こうしてみると、「月給2倍論」という「構想」が日本の高度成長に与えた影響の大きさが、改めて理解できると思います。
そして、「生活が豊か」になるということは、人として誰もが願う「共通善」であったと言うこともできるでしょう。

ここでは、日本という国家レベルの「構想」を例にとりましたが、このパターンを異なったレベルの社会や組織に当てはめても同様に考えることができます。

多くの人に幸せもたらすような「構想」を描くことは、地球社会の持続的発展にとって、かなり重要なことだと思います。

「社会貢献構想インキュベーター」とは、まさに、その「構想」をデザインして具現化する役割を担うのです。