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「地球総生産の拡大」という構想
〜「競争」から「共創」へのシフト

By Yuichi Igarashi

冒頭のYouTube動画リンクは、月周回衛星「かぐや」が撮影した、月の地平線から昇る「満地球」の映像です。

改めて見ると、月との対比で地球の美しさが際立ち、「地球社会」という言葉もイメージしやすくなると思います。

私は平和な状況で文章を書いていますが、この瞬間、この地球上で、紛争や虐待などで多くの人々が亡くなっているのも事実です。
そして、そのそれぞれの痛みというものは、想像もできないほど痛ましく苦しいものでしょう。

でも、外側から地球という星を見つめれば、例えようも無く美しい。

地球の青さというものは、悲しみや痛みさえその中に取り込んだ調和の美しさだと思います。

普段は意識することは無いと思いますが、私たちは、この地球に相乗りしながら、毎年1年かけて太陽を回る旅をしています。

そのスピードは約時速10万キロ。回る距離は約9億4千2百万キロメートルです。

人や企業や国ごとに、全く違うことをして過ごしているようでも、宇宙から見れば、地球上で生きる私たちは、いつも一緒に同じ方向に向かって旅をしているといえるでしょう。

でも、世界から飛び込んでくる悲惨なニュースを見たり、身近で色々なトラブルが起きたりすると、旅を続けるのが不安になる時もあるでしょう。
では、不安を減らして幸せな旅にするには、地球の旅人はどう考えていくべきなのでしょうか?

まず、現代においては私たちはまだ地球の外で生きることはできず、この星で他の人と肩寄せ合って暮らすしかないと想うことも大切でしょう。
そしてそれを踏まえた上で、経済的な観点からは「『地球総生産』の拡大」という概念を共有することが必要になると思います。

では、「地球総生産」とは何なのでしょうか?

それは、よく使われる「国内総生産(GDP)」に対置する考え方で、一国の豊かさではなく地球全体の豊かさを示すものです。

よくビジネスの場などで「日本企業の競争力が落ちている」「将来的に日本のGDPのランキングの低下が加速する」という話がよく聞かれます。

では、日本、あるいは他の国においても、いわゆる「一人勝ち」が望ましいことなのでしょうか?
自国の「国内総生産(GDP)」の数値が向上すればそれで良いのでしょうか?

元米国外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏は、次のように言っています。

「現代を定義するのは、まさにグローバル化という現実である。人間、思想、温室効果ガス、商品、サービス、通貨、テレビ・ラジオ放送、麻薬、兵器、eメール、コンピューターや人間を侵すウィルス、その他実に多くのものが国境を越えて大量に流入している。ここから生まれる諸課題には、一国だけで対処できるものがほとんどない。多くの場合、協力や妥協、そして、ある程度の多国間主義が不可欠なのである」
「自分で全てを決められる国は一つもない」
「国境を越えた危機に対処するには、地球規模の合意形成が必要となる」

つまり、これからの世界は、経済・産業や政治においても相互依存性が高まる傾向が加速していくということなのです。
自国の利益のみを追求し、よく例えられるような「限られたパイ」を奪い合う競争をしていては、長期的には危機にさらされる可能性が高まり、「一人勝ち」が難しくなる時代になっています。

そのような世界においては、「限られたパイを奪い合う」のではなく、地球の旅人全員の知恵を結集して「どうすれば、パイそのものを大きくして分かち合うことができるのか?」ということを考えたほうが、より幸せになれるはずです。

「『地球総生産』の拡大」という概念は、いわば「パイそのものを大きくする」ことを表しているのです。

これからの時代は、一国の「国内総生産(GDP)」のみを追求するのではなく、「地球総生産」という考え方を意識して、自国と世界の発展を両立させることが求められるのだと思います。
そして、その両立のための解を多様な人や組織がともに考えていく、「『競争』から『共創』」というコンセプトも重要になってくると思います。それだけでなく「『部分最適』から『全体最適』」へと視座を高めていくこともより重視する必要があるでしょう。

また、国家だけでなく、企業や地域社会においても同じような考え方が求められているように感じます。

このように言うのは簡単ですが実行は難しいのかもしれません。
でも、このような考えを実践しないと地球が危うくなる時代になってきていることを、多くの人が感じているのではないでしょうか。

そして、その危機を回避し、地球が持続的に発展していくためには、個人も組織も手元から視線を上げて「全体最適」を考えていくことが必要でしょう。

実際には本当に小さなことからしかできないと思います。
そして、色々なことに挑戦していけば、失敗も葛藤も悲しみもあるでしょう。

でも、宇宙から見れば、そのプロセスも地球の美しさの中に取り込まれているように思えます。
一見、矛盾や理不尽なことに出会ったとしても、方向さえ間違わなければ、結果として良い旅に繋がっていくはずだと信じています。